フレット交換、やり直し! Gibson Les Paul

ここまで粗悪なフレット交換は初めて見ました。

北海道のお客様のご依頼です。以前よりお付き合いのあるお客様からのご紹介です。とある工房に依頼されたという1万円フレット交換。SNSでは非常に反響がありました。それだけショッキングな内容であり、多くの人に届いたのだと思います。

まずはフレット交換を終えたばかりという、こちらの写真を御覧ください。

絶句。

まず、この状態で良しとしお客様に納品。SNSにも堂々と作業写真を掲載。つまり、この状態がどうなのか全く判断ができていないということです。恐ろしい。いや怖すぎる。

この工房の人はSNSではフォロワーも非常に多い方ですので、今後も依頼される方はどうしてもいるでしょう。

ギターをいじらない、弾かない人でも、この状態の酷さがわかるのではないでしょうか。誰の目にもわかるほどの状態でした。SNS上では、素人の自分のほうが上手いという声がちらほら。こう思わせてはプロの仕事じゃないでしょう。なによりこれをお金を払って大切なギターを預け、受け取ったオーナー様の気持ちを考えると許せません。

見た目だけではなく、精度も低すぎてオーナー様の狙ったセッティングどころか、標準的なセッティングにもできませんでした。

フレットの打ち込みは浮きが見てわかるほど全体に渡り、すり合わせしてあるにも関わらずガタガタで、音づまりする箇所がある。ここができてなきゃフレット交換の意味ない。フレットタングはオーバーバインディングのために切り欠きますが、異常なほど切ってます。そりゃ端の浮きが避けられないでしょう。フレット溝には多量のカスが詰まっており、これも相まってフレットがきちんと打ち込まれなかったのでしょう。

指板やバインディングは、許容されないほどの傷。フレットエッジは丸めようとしたのでしょうが、いびつ。技術的にできなければ、丸めないという選択はできたはずです。

ナットはきちんと処理せず、隙間の空いた状態で接着。これは、技術の問題なのか?技術者の技量以前にちゃんと仕事をしようとすればこんなことにはならない。ナット溝もとても高い。ナットは技術者の力量が見れるところでもありますが、もちろんそんなレベルではありませんでした。

リペアマンの考えや方法、技術力や精度はそれぞれです。しかし、今回のこれはそれ以前の話で、最低限のことをやろうとしていないし、できていない。

あまり他人のリペアを批判はしたくありません。修理する際の状況はまちまちで、それがその時のベストだった事もあるでしょう。しかしフレット交換ともなれば、しっかり腰を据えて作業することになるはずです。いや、たとえ急いでもこんな仕事はしませんが。

1万円フレット交換。金額の問題ではありません。

1万円フレット交換、大いに結構です。しかし、もっと誇りを持って仕事をしてほしいものです。この技術であれば、他人のギターはいじらず自分のギターを趣味でいじるにとどめて欲しい。

フレット交換はリペアの中でも多い依頼ですが、知識と経験、技術を要するリペアです。工賃も高額になりますが、それにも理由があるわけです。

多くのリペアマンのみなさん誇りを持って仕事をしています。素晴らしい先輩方の技術をネットで拝見させてもらっています。その中にこのような方がいることは本当に残念です。

この仕事は机一つと、道具が少しあれば誰でも始められてしまいます。難しいことですが、依頼される場合は上記のことも踏まえて慎重に選んでください。

 

なんだか長文になってしまいましたが、

 

切り替えて、改めてフレット交換をやり直ししていきます。フレットは交換した際と同じ、Jescar ニッケルシルバーです。

指板の傷も修正できるところは行い、指板調整。フレットエッジはオーナー様に伺い球面仕上げ。私は球体仕上げは必須とは考えていませんがお好みです。弦高は低めのセッティングに合わせて、ナットの溝切り整形。

お預かりしたときの状態と比べるまでもなく、弾きやすくなりました。とりあえず、一安心です。

フレット交換を終えたギターの美しさ。いつかどこかでフレット交換を依頼されたとき、この感動をぜひ味わって欲しいです。

この件を踏まえて、誠実に仕事をしていこうと改めて思います。